変色と亀裂

変色・亀裂

変色について

1.混色して色が変わるもの

(その1) 化学的変色
エメラルドグリーンとカドミウムイエローを混ぜ合わせると、黄味の強い鮮やかなグリーンが生まれますが、月日が経つにつれて黒ずんできてしまいます。これはエメラルドグリーンの顔料の主成分である銅(Cu)と、カドミウムイエローの顔料の主成分である硫化カドミウム(CdS)中の硫黄分とが化学反応を起こして、硫化銅(CuS)を生成するためです。このようにある種の色においては、混色することによって、顔料同士が互いに化学反応を起こし、変色することがあります。
※現在はエメラルドグリーンは販売されておりません。

(その2) 物理的変色
チタニウムホワイトにウルトラマリンを混ぜて、何か月も放っておくと、はじめに練り合わせた時の色よりも、白味が強くなっていることに気づくはずです。これは着色力の強いチタニウムホワイトが、比較的着色力の弱いウルトラマリンの青味を喰ってしまうからです。
チタニウムホワイトの代わりにジンクホワイトで練り合わせてみますと、ちょうど逆の現象がみられます。ホワイトの中でも最も着色力の乏しいジンクホワイトは、次第にウルトラマリンに負けて青味を帯びてきます。このような変色を前述の化学的変色に対して物理的変色と呼んでいます。混色する場合はこうしたこともあらかじめ心しておくべきでしょう。

2.絵具自体が変わるもの

クロームイエロー系の絵具で描画しますと、その成分中に含まれている鉛(Pb)が、大気中の微量の硫黄ガス(S)に侵されて硫化鉛(PbS)を生成し、次第に黒っぽくなってきます。温泉地のように硫黄分の多いところでは、黒変化も顕著になります。また、バーミリオンのように日光の紫外線や熱によって黒変化するものもあります。

※大気中におくと色が黒ずんだり、褪せたりするもの。
色が黒ずむもの:クロームイエロー系、クロームグリーン系、バーミリオン
色があせるもの:スカーレットレーキ、オーロラピンク

※描画後、表面にワニスをかけておきますと、ある程度変色を防ぐことが出来ます。

亀裂について

1.キャンバスの伸縮が激しいとき

キャンバスは麻布でできてますから、湿度の変化が激しいと、急激に伸びたり縮んだりします。そのような時、上に塗られた絵具がキャンバスの伸縮についていけないので亀裂がおきます。時間の経過とともに絵具の弾力性がなくなるので、一層亀裂する可能性が生じてくるわけです。

2.地塗りが必要以上に厚過ぎたとき

絵具が内部まで完全に乾くまでには、相当な日数がかかります。そのため、地塗りが乾燥不十分なまま描き始めると、後日内部が乾こうとする時、体積の減少に伴って亀裂が入ってしまうのです。どうしても厚塗りしたい場合は、一度で塗らずに薄塗りを何回かに分けて塗るように心がけてください。

※厚塗りせずとも地塗りが乾燥不十分なまま描画すれば同じ結果になります。

3.シッカチーフの使い過ぎ

制作を急ぐ時などは、ついシッカチーフを多量に使いがちです。無論シッカチーフは乾燥を早める為にあるのですが、それもほどほどにしておかないと亀裂の原因になります。表面だけが大急ぎで乾いてしまうので、「2」と同様、内部が乾くときにひび割れがはいってしまいます。絵具に直接混ぜる時は5%程度、溶き油に混ぜて使う時も大体10~20%位にとどめておくのが無難でしょう。

4.地塗りにジンクホワイトを使った時

ジンクホワイトは乾燥後ツヤを引いて表面が粉っぽくなってしまう(チョーキング)欠点があります。そのため、上に絵具を重ねていったとき、その絵具の油の一部を吸収して亀裂を起こす原因を作ります。同時に、油絵具の生命ともいうべき優雅なツヤをも奪ってしまいます。それでなくともジンクホワイトはホワイトの中でもとりわけ固着力が乏しく、剥落する心配もありますので、地塗りにジンクホワイトはタブーです。ファンデーションホワイトがない時は、チタニウムホワイト、シルバーホワイトをなるべく薄く塗って使用してください。

(1.)チタニウムホワイトにも黄変を防ぐためにジンクを多少入れてありますので、時には僅かに亀裂が入る事があります。できるだけファンデーションホワイトあるいはキャンゾールをお使いください。
(2.)メーカーによってファンデーションホワイトの表材が異なっておりますので、効果を実際に比較検討(キャンバスの上に地塗りして、ローズマダーかアイボリーブラックをその上に塗って乾燥後の状態をみる)したうえ、安定性の高いものを使用する事です。

~ キャンゾールについて ~

今までのファンデーションホワイトを、さらに使用しやすい状態に改良した油性キャンバス塗料で、固着力に優れ、キャンバスの地塗りには最適です。スケッチ板やベニヤ板などは地塗りしないで描きますと、生地の影響で発色が悪く、冴えた色調が出ません。こういう場合はキャンゾールはうってつけです。キャンゾールは一日で乾きますから、2~3回塗りも短期間でできます。しかし、実際に絵を描き始めるには1週間ほど経ってからにしてください。